本研究では、国内外の、人を対象とした医科学研究の大型プロジェクトのELSI組織・活動を網羅的に把握し、「日本型」と呼びうる活動の態様について、社会学的な観点から理論的整理を行っている。最終年度は、ELSI活動のガバナンスのあり方も含めて検討し、利害関係者にとっての意義や課題の分析を行った。組織のあり方は、委員会としての態様か、センター・事業としての態様かの違いがあり、前者では予算が低額な傾向にあった。委員会としての位置づけには、(1)研究代表者個人の設置、(2)研究推進組織による設置、(3)研究推進組織外部の設置などがあり、その役割は助言、諮問、監督などがみられた。他方、センター・事業として独立した態様では、研究課題毎の研究倫理コンサルテーションや広報・科学コミュニケーション活動も含めて事業化される傾向があった。委託事業を中心に、ELSI組織・活動の役割は、当該研究事業にとっての最善の支援であることが強く求められ、一部の研究事業では、ELSI組織独自の調査研究や情報発信の自由度が少ない傾向が見られた。米国の国際ヒトゲノム計画以降のELSI活動のプログラムでは、研究成果の社会への応用に即して、当該研究とは独立した立場から独自予算がつけられ、倫理的法的社会的課題を見据える調査研究が実施されてきたが、「日本型」ELSI活動では、ELSI活動が独自事業・研究分野としては発展せず、特定の分野の研究プロジェクトの適正な推進に、研究倫理指針からみたお墨付きを与える組織としての期待が強いなかで普及したといえる。その結果、各研究事業の実態である多施設共同研究において、倫理面の質を一定に担保する役割を担ったと。しかし、活動内容は設置者に依存し、時々の予算や意向によって大きく矮小化された例も見られた。様々な知見が事業内部に滞留することを避けるため、今後、ELSI組織・活動の横の連携を広げ、学術的な知見として広く共有・蓄積することが重要であろう。
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