文化財の科学調査では、非破壊・非接触を大前提とした手法を要求されるケースが多いことから、X線を用いた調査方法は保存科学の歴史の中で重要な役割を担ってきた。例えば文化財の内部構造を調べるためにX線透過撮影が行われてきたが、その調査手法には改善の余地が残されていると考えられる。 材質に応じたX線照射条件を調べるために、シミュレーションソフトウェアGEANT4を用いて、X線の透過率を定量的に導き出すことによって、文化財を構成している材料に応じたX線透過撮影のための最適条件を定量的に導き出す手法の研究を行った。また、実地調査や基礎実験をもとに検討を行った結果、彩色が施された画材、胎内物が納められていると推測される木彫像などを想定した計算も開始した。 昨年度までに、仏像の内部構造の調査、日本の音楽史に関わる横笛の構造調査、修理を要する木製文化財の内部調査などのX線を用いた現地調査を行ってきたが、このような移動が困難な文化財の現地調査への要望は尽きることが無い。そして、今年度購入した可搬型X線照射装置を用いると、管電圧を200kVまで上げることができるので、建造物の部材や塑像などの物質量が大きい文化財の調査も可能となる。この可搬型X線照射装置を用いた現地調査に備えて、今年度は実験室にて基礎実験を行った。また、現地調査にて、X線照射装置とX線検出器を固定するための器材の設計と製作も行った。
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