研究概要 |
当初,現地調査として予定していた中国の氷河の調査は,ウルムチの政情不安のため中止した.そのため過去に得られていたサンプルの分析を中心におこなった.分析は,アラスカ・グルカナ氷河,およびネパールヒマラヤ・ヤラ氷河の微生物群集を中心に行った.グルカナ氷河では2008年に行われた調査のサンプルの分析を行った.主に顕微鏡による雪氷藻類群集の定量,表面不純物量の定量およびサンプルの溶存化学成分の分析を行い,2000年および2001年の結果と比較し,近年の変化を明らかにすることを試みた.藻類群集の分析の結果,バイオマス等の大きな変化は見られなかったが,末端域および上流域の群集構造の変化が見られた.化学成分には大きな変化はみられなかった.グルカナ氷河は質量収支がマイナスで縮小傾向が続いていることから,この藻類群集の変化は,氷河の末端の後退や雪線高度の上昇によるものであると考えられる.2008年に採取したネパールヒマラヤ・ヤラ氷河のサンプル中の動物群集の分析を行い1996年との比較を行った結果,クマムシ,ヒョウガユスリカ,ヒョウガソコミジンコの体長,個体数に,氷河の場所によって変化があることが明らかになった.以上の氷河サンプルの他,微生物群集の時間変化を明らかにするため,以前に採取されたヒマラヤや天山山脈のアイスコアの分析もおこなった.今後,明らかになった生物群集の変化と氷河環境との関係をさらに詳しく分析する予定である.
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