1. クラスターDNA損傷の線量依存性な質的変化の解析 1.49keVの軟X線マイクロビームを、細胞核の一部に局所的に照射することによって生じたDNA損傷を、免疫抗体法による多重染色を行って解析した結果、線量が低い場合は、DNA1本鎖切断を認識するPARP-1が照射部位に集積するが、線量を高くすると、PARP-1に代わり、DNA2本鎖切断を認識する53BP1が集積することを見出した。この結果は、線量が低い場合は、DNA切断がある一定の間隔で生じているが、線量を高くすると、DNA切断数が多くなり、互いに近接するため、DNA2本鎖切断として認識されることを意味する。また、細胞を照射後、塩基除去修復酵素であるEndo IIIとFpgで処理することにより、TUNEL法のみではDNA損傷が検出できない線量域でもDNA損傷を検出できることも明らかになった。以上から、直径約2マイクロメートルの軟X線マイクロビームを、細胞核の一部に照射することによって、重イオン線を照射した場合と類似した局所的なDNA損傷(クラスターDNA損傷)が生じるが、その損傷の質的内容が、線量に依存して大きく変化することを示唆している。 2. クラスターDNA損傷のタイムラプス観察による解析 軟X線マイクロビームを照射するために、ポリプロピレンフィルム上にHeLa細胞を培養し、蛍光タンパク質であるGFP、DsRedと融合した、ヒストンH2B、DNA2本鎖切断修復タンパク質であるNBS1を発現させる系を確立した。軟X線マイクロビームを、細胞核の一部に照射後、共焦点レーザー顕微鏡を用いて一定時間ごとに観察を行った結果、ヒストンH2Bについては、顕著な違いが見いだせなかったが、NBS1は照射部位に蓄積する傾向が認められた。ただし、免疫抗体染色法により観察した場合とは結果に差があるため、更なる検討を行っていく。
|