1.クラスターDNA損傷の線量依存的な質的変化の解析:軟X線マイクロビームを細胞核の一部に照射し、クラスターDNA損傷の線量依存的な変化を観察した結果、照射領域内の線量が1Gy以下ではPARP-1が集積するDNA1本鎖切断(SSB)タイプのクラスターとなり、それ以上の線量では、53BP1等のDNA2本鎖切断(DSB)修復タンパク質が集積するDSBタイプのクラスター損傷として認識されることを明らかにした。この結果より、局所的なDNA損傷の数(密度)が、損傷認識の機構と密接に関連することが示唆された。 2.クラスターDNA損傷のタイムラプス観察による解析:GFP等の蛍光タンパク質を融合したヒストンH2B、NBS1、Ku80を発現した細胞を用い、マイクロビームを細胞核に照射後、タンパク質の局在変化を一定時間ごとに観察した。予想に反し、ヒストンH2BとKu80は、照射部位に集積しなかった。一方、NBS1は蓄積するものの、細胞ごとの蛍光強度の差が大きく、線量依存性を見るには至らなかった。今後も改良を加えて解析を行う予定である。 3.マイクロビーム照射によるがん細胞致死効果の解析:正常型p53、変異型p53を発現した細胞、およびp53を欠失したがん細胞を用い、バイスタンダー応答による細胞生存率の変化を解析した。マイクロビーム2Gyを5細胞のみに照射した場合、変異型p53細胞では約10%以上の細胞でバイスタンダー細胞死が生じたが、正常型p53細胞とp53欠損細胞では、ごくわずかにしか生じなかった。比較のため、X線ブロードビームを試料全体に照射した場合には、バイスタンダー細胞死の場合とは異なり、正常型p53細胞が他の細胞と比較して顕著に高い感受性を示した。以上の結果から、がん細胞に多くみられる変異型p53細胞は、バイスタンダー細胞死を生じやすいことが明らかとなり、放射線がん治療においてバイスタンダー応答が生じるとしても、その効果はがん細胞により高く現れる可能性を示した。
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