これまで主として栄養塩の吸収・除去による富栄養化対策に用いられてきた水生植物による水質浄化法(植生浄化法)とその根圏に棲息する微生物(根圏微生物)の共生系を1つのシステムとして扱い、微生物の各種化学物質分解能も活用する新規水質浄化技術へと展開するべく、各種汚染への適用範囲が広く、経済的かつ効率的な"根圏浄化法"の確立を研究の全体構想としている。本研究では、特に水生植物による特定の根圏微生物の選択的集積メカニズムを明らかにし、根圏浄化法を合理的かつ効果的に適用するための知見を集積し、化学物質汚染浄化に資する根圏浄化法のプロトタイプを構築することを目的としている。 平成23年度は、昨年度までの研究で得られた4-tert-ブチルフェノール(4-t-BP)分解菌Sphingobium fuliginis OMI株による4-t-BP分解反応について、分解産物分析側からのアプローチによってこれを明らかにするための実験を実施した。GC/MS分析の結果、OMI株は4-t-BPを芳香環のメタ開裂経路によって分解していることを明らかにした。また、OMI株のゲノム配列からも、芳香環のメタ開裂を触媒する酵素の関連遺伝子が見つかったことから、これらの遺伝子群が4-t-BP分解に関わっているものと推定された。ここで見つかった遺伝子群はフェノール分解に関与するものと類似していたことから、OMI株の4-r-BP分解促進は、本研究の着想を得た、ウキクサ根圏におけるフェノールの分解促進現象と同様のメカニズムによるものと推定された。また、OMI株のビスフェノールA(BPA)分解経路についても検討し、OMI株がBPAの2つの芳香環のうちの1つを水酸化、メタ開裂を経て分解した後、残りの芳香環を開裂するという、細菌類では新規の分解経路であることを明らかにした。このように、水生植物と根圏微生物の共生系では、多様な芳香族化合物の分解促進が可能であることを示すことができた。今後、水生植物自身の活性と根圏微生物の根圏での安定性(定着化)に向けた検討が期待される。
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