本研究は、赤外分光法と周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)を組み合わせることで、単一分子スケールの分解能で分子を識別・同定できる技術の開発を目標としている。本年度は、特定の波長の赤外光を選択的に取り出すことのできる赤外光源の開発と、赤外光を試料に照射しながらAFM観察が可能なAFM装置の設計・製作に取り組んだ。 その結果、赤外光源に関しては、幅広い波長範囲の光を発生する赤外光源と特定の波長の光のみ透過する特性を持つフィルタを組み合わせることで、選択的に特定波長の赤外光を取り出すことのできる光源を完成させた。AFM装置の設計においては、液中での観察を可能とするために、試料の下側から赤外光を照射可能とした。また、できるだけ高い強度の赤外光を試料に照射するために高い開口数の対物レンズを試料の下に配置して赤外光を集光し試料に照射できるようにした。そのため、高倍率対物レンズの短い作動距離の間に、試料を走査するためのスキャナを収める必要が生じた。それを可能とするため、有限要素法を用いたシミュレーションの結果に基づいて、高さ4mmの薄型スキャナを設計した。現在、以上のように設計した装置全体を試作して組み立て終わった段階である。 来年度は、本年度に設計および製作した赤外光源とAFM装置を組み合わせて、実際に赤外光を試料に照射して分子振動を誘起して、その効果をAFMにより検出できるかどうかを検証する。さらに、その分子振動の励起・検出のために必要な赤外光の強度を定量的に明らかにする。その後、赤外フィルタを、赤外光の波長を連続的に変化させることのできる分光器と置き換えることにより、単一分子レベルの赤外分光が可能かどうかを検証する。
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