近年、分析・合成反応など様々な化学プロセスを集積化する研究が多く報告されているが、さらに飛躍的な高効率化のためには、ポンプなどの流体駆動デバイスを集積化する必要がある。しかし、流体駆動デバイスは通常電力を用いるため、現在の技術では集積度に限界がある。一方、研究代表者は生体の心筋細胞・血管細胞やその組織はマイクロサイズに化学的・力学的機能が高度に集約化された素子であり、生体内で高度な流体駆動・制御を実現していることから、これを利用することで飛躍的に集積度の高いマイクロ流体駆動デバイスを実現できると着想した。そこで、本研究の目的はマイクロ構造体と細胞・組織の機能を有機的に融合した新たなバイオマイクロデバイスの創成とした。 平成24年度までに、心筋細胞ポンプの改良として、いったん凍結した心筋細胞を用いたポンプの開発やマイクロ流路内での心筋細胞培養を実証した。また、血管細胞デバイスとして、細胞パターニングにより血管内皮細胞の分泌物質を計測する系を開発した。 平成25度はこれらの成果をもとに、心筋細胞ポンプをさらに強化させるため、幹細胞であるiPS細胞を心筋細胞に分化させたポンプの開発に取り組んだ。iPS細胞を心筋細胞に分化させることで、動物を用いることによる煩雑な実験操作と倫理的な問題を回避できる手段を提供できる。具体的には、ダイヤフラム膜上にブロックを置き、この上にさらに薄膜を張ってテント状にする。その上に分化前のiPS細胞を置き、心筋細胞に分化させ、拍動をダイヤフラム下のチャンバー内流体に伝え送液するデバイスを作製した。また、血管細胞デバイスの強化のために、平滑筋のマイクロ流路内での接着挙動を調べた。平滑筋は流路の曲率によって接着率が変わることが見出され、今後のデバイス設計の指針を得た。以上より、心筋・血管デバイスともにきわめて広い応用可能性が得られたといえる。
|