研究概要 |
熱的に薄い材質の燃焼進行速度,すなわち火炎燃え広がり速度は,一般的な熱理論により定常となることが見出されている.しかしながら,ところが,申請者は低圧場という特殊な空間での火災物理現象(=低圧火災と呼ばれる新分野)を探究する過程において,電線燃焼では燃料が熱的に薄くても系が非定常(あるいは準定常)となり,一般に系の固有値として与えられるべき燃え拡がり速度が定義できないことを見出した.また溶融しながら燃焼するその挙動そのものが重要であることを過去の研究で指摘してきた.本研究では,特に溶融部の形成過程までを考慮に入れることで,この燃え広がり現象の定常・非定常性を分ける臨界条件を支配する要素を理論的に示すことを目的とする. 初年度にあたる平成21年度においては,溶融部の時間的挙動を正確に把握するため高速度カメラシステムを導入して内部流動を可視化すると共に,溶融部サイズの時間変化を様々な電線種において調べた.また電線燃焼理論モデルの構築のため,対比となる液滴燃焼との違いに着目してデータ整理を行った.その結果,溶融部内部の挙動は著しく複雑であり,当初考えられていた回転流動のような単純な動きではないことがわかった.本計測システムにより気泡の発生位置やサイズを調べることが可能になり,加熱状態を気泡の可視化を通じて可能であることを確認した.溶融部サイズはどの電線においても基本的には時々刻々と変化し,電線燃焼は本質的に非定常(より正確には準定常)であることがわかった.電線種によって時間依存の挙動が異なり,本研究の最終目的である定常・非定常をわける条件が理論上かならず存在することが確認した.ポリマー燃焼と液滴燃焼との違いがあるものの,熱流入および熱分解を適切にモデルすることで,液滴燃焼との類似性は保持される.次年度は,本年度得られた実験データを基に,電線燃焼理論モデルの構築を目指す.
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