研究概要 |
熱的に薄い材質の燃焼進行速度,すなわち火炎燃え広がり速度は,一般的な熱理論により定常となることが見出されている.しかしながら,ところが,申請者は低圧場という特殊な空間での火災物理現象(=低圧火災と呼ばれる新分野)を探究する過程において,電線燃焼では燃料が熱的に薄くても系が非定常(あるいは準定常)となり,一般に系の固有値として与えられるべき燃え拡がり速度が定義できないことを見出した.また溶融しながら燃焼するその挙動そのものが重要であることを過去の研究で指摘してきた.本研究では,特に溶融部の形成過程までを考慮に入れることで,この燃え広がり現象の定常・非定常性を分ける臨界条件を支配する要素を理論的に示すことを目的とする. 前年度から引き続き検討してきた溶融部の非定常性については,特に溶融部体積がどのような要因によって増加し続けるのかを緻密な画像処理をしながら検討した結果,もともと溶融速度とガス化速度とが不釣合いになることが原因であることがわかった.すなわち電線燃焼では溶融部への熱輸送過程が常に過剰になるために「本質的に」非定常であるということになる.数学モデルとして,火炎直径Rを変数にして溶融速度ならびにガス化速度をRの関数として与えることで,それらが等しいとした際,Rが実数解を持つかどうかが定常解を与えるかどうかの理論的な裏づけとなることを見据え,理論構築を行った.一方で,溶融部体積の落下が頻繁にあっても火炎進行速度はほぼ一定を保ちながら進行する事実を踏まえ,この速度を予測するために一次元伝熱モデルを提案し,thermally-thinの仮定を外すことで2つの無次元数(Pe数と半径方向伝熱量を示す無次元数A)によって幅広いスケールにおいて延焼速度を予測できることを示した.最終年度である次年度においては,数値解析による電線燃焼シミュレーションを実施し,これらの理論の検証を行う.
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