本研究では、"Multi-Directed Protein Evolution(多方向タンパク質進化)"を提唱する。これはダイナミックなゲノム進化・再編を試験管内で模倣し、様々な機能性人工タンパク質を並行して創出する試みである。将来的には、得られるタンパク質同士が相互作用し、例えば硬組織形成のような一つのシステムが、自発的に創発するような反応場を設計したい。本研究では、概念実証例として、ハイドロキシアパタイト(HA)の結晶成長を制御するタンパク質群を創出する。これらを組み合わせて硬組織類似有機無機複合材料を構築し、医工学や再生医学分野に貢献する。具体的には、ゲノムのダイナミックな変化を、多数の構造および機能モチーフを組み合わせることで模倣する。そして、HAの結晶成長を制御するタンパク質群を、並行的に創出する。具体的には(1)HA核生成能をもつ、骨や歯で発現するhuman dentin matrix protein1の機能モチーフ2種類、(2)human bone sialoproteinとhuman osteopontin がもつ、2種類のコラーゲン結合モチーフ、(3)球状蛋白質の疎水性コアを形成する二次構造として、barnase由来の2種類の二次構造形成ペプチド、(4)進化分子工学的手法により取得されたチタン結合ペプチドである。計7種類のペプチドをRandom Multi-recombinant PCR法を用いてランダムにシャッフリングし、人工蛋白質のコンビナトリアル集団を構築した。得られた蛋白質を発現・精製し、それらのHA形成に及ぼす影響を調べた。HAの形成はpH変化を指標に調べた。その結果、集団の中からHA形成を促進する蛋白質と抑制する蛋白質のそれぞれを得ることが出来た。
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