研究概要 |
希少食肉目動物の飼育下個体が排泄した糞を用いて,糞中の性ステロイドホルモン代謝物の有効な定量法を確立することを目的として,糞中のプロジェステロン代謝物およびエストロジェン代謝物の同定を行った。1.クマ科3種とネコ科7種の飼育下個体から,糞を定期的に採取保存し,繁殖生理の解明に必要な試料を収集した。2.チーターとツシマヤマネコにおいて,高速液体クロマトグラフィーと酵素免疫測定法を併用した方法により,糞中の性ステロイドホルモン代謝物の同定を行った。チーターの妊娠期の糞中には,いくつかプロジェステロン抗体免疫反応性ピークが検出され,このうちの3種を5α-pregnan-3α/β-ol-20-one, 5α-pregnan-3,20-dioneと同定し,他に5β-pregnan-3α/β-ol-20-oneのわずかな免疫反応性も認められた。妊娠の前・中・後期の間で,これらの糞中プレグナンの構成に明らかな違いは認められなかった。また,ツシマヤマネコの妊娠期の糞中にも同様に,5α-pregnan-3α/β-ol-20-oneと5α-pregnan-3,20-dioneが検出された。両種の糞中には,非代謝型のプロジェステロンはほとんど存在しなかった。両種の糞中エストロジェンとして,主に3種の物質が検出でき,このうち2種はestradiol-17βとestroneであり,estradiol-17βが主要排泄型であることが明らかとなった。3.チーターとツシマヤマネコの糞を用いた非侵襲的内分泌モニタリングにおいて,卵胞活動を調べる場合には糞中estradiol-17βを定量する方法,卵巣黄体活動や妊娠のモニタリングには,5α系のプレグナンと高い交叉性を示す抗体を用いた定量法が有効であることが明らかとなった。
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