研究概要 |
希少食肉目動物の繁殖生理の解明と繁殖生態調査法の確立にむけた本年度の研究において,主に次の結果が得られた。1.プロジェステロン(P)とアンドロステンジオン(AD)抗体を用いて,糞中の代謝物含量を定量する酵素免疫測定(EIA)法を確立し,サーバルにおいて,糞中代謝物の動態から繁殖生理学的特徴について調べた。マウントまたは交尾行動がみられた個体では、その最終観察日の平均2.4日後からP値が急激に上昇し始めた。これらの行動がみられなかった個体のPは基底値を維持した。ローリングや顎や体の擦付けなどの行動変化が頻繁に観察された時期には、AD値の明確な上昇が認められ、卵胞発育を反映しているものと考えられた。すなわち,サーバルは交尾排卵動物である可能性が高く、また発情に関連したいくつかの行動が明らかとなった。3.高速液体クロマトグラフィーとEIA法を併用し,ホッキョクグマの糞中の性ステロイドホルモン代謝物の同定を行った。雄個体の糞中から,AD, epi-androsteroneおよびandrosteroneが同定でき,またテストステロンや5α-dihydrotestosteroneは非常に僅かである(または含まれていない)ことが判明した。雄ホッキョクグマの繁殖生理の調査には,これらのアンドロジェンと高い交叉性を示す抗体を用いた定量法が有効であることが明らかとなった。4.飼育下のトラの全血と糞を用いて,X・Y染色体上にある性特異的プライマー(ZFX-PF/R, DBY7-PF/R)を使ったPCR反応により,各染色体上の特異配列を増幅させることに成功した。この方法により判別した性は既知の性と一致したことから,トラの糞中DNAを指標とした性判別法が確立できた。
|