観察者が動物に自明のものとして当てはめるオス/メス、オトナ/コドモ、母親/子、優位/劣位といった区分が当の動物たちにとって実際の相互行為のなかでいかに組織化されるのか/されないのかを明らかにすることを目的に、国内の飼育チンパンジーおよび飼育者との相互行為に関する資料を、ビデオとフィールドノートを併用して、毎月1回収集した。この成果の一部として、第6回責任の文化的形成セミナー・併設データセッション(9月9日)において、特に飼育者とチンパンジーの相互行為に着目して"When Species Meet"と題する英語での口頭発表をおこなった。チンパンジーが、形態計測という場面に於いて指示される立場でありながらも、身体や物の配置を先取りしながら飼育者と協調的に作業を進めていることが明らかとなった。このことは、完成体(オトナ)と未熟なもの(コドモ)という区分によってイメージされがちな、ヒトと動物の関係について再考を促す契機となるとともに、自然/文化の対立軸そのものの境界領域を扱う重要な出発点となる。今年度は、海外調査もおこなう予定であったが、体調不良のため渡航が困難となったため、次年度調査にむけての準備を進めた。本研究で着目している様々な区分は相互に密接に結びついており、その結びつきは人間による人間理解を背景にしているだけでなく、そうした人間理解を「自然」のものとして扱うことの正当性をも提供してきた。そこで、霊長類研究の歴史的背景についても文献収集をおこなった。文献データベース(Web of Science)を利用して、タイトル、要旨、キーワードにチンパンジーないしボノボが含まれる1900~2009年までの文献を検索した(2439件)。文献情報は文献管理ソフトEndNoteに取り込み、セックス/ジェンダーに関してはFEMALE、MALE、SEX、優劣に関してはDOMINANCEを含む8つのキーワードが含まれるものをタグ付けして分類した。各文献の研究分野による分類もおこなった。
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