今年度は研究開始初年度であったため、まず基本的な研究環境の整備から入った。北米の移民関連資料、日本の出版史関連資料など購入の決まったものから揃え、また必要な資料は後述のように図書館調査によって入手した。ノートパソコンなどの必要器機についても購入した。研究内容としては、まず北米への出移民に関連する案内書についての調査分析を行い、それらの言説が、どのように移民希望者たちに訴えたのかを、文学の表現の持つ想像力との関連性のもとに考察した。これについては別掲の論文「移民の想像力-渡米言説と文学テクストのビジョン-」を発表している。従来は歴史学や社会学などからのアプローチの考察が多かったことに対し、想像力というキーワードを対置し、文学的表現が持った訴求力から出移民の言説の問題を考察したことが、本研究の意義であると考えている。環太平洋の日本書店網に関する本研究の現時点における報告を、カリフォルニア大学バークレー校の学会において報告も行った。北米の書店網に力点をおいて話したが、他領域の研究者と意見交換も生まれ、有意義であった。また東アジアへの日本書店の進出についても、徐々に調査を始めている。まずは全体像についての概略の把握を行うために、日本の出版史関連資料をもとに、書物の流通網の形成と変容、また各地の書店の組織化のようすから書店数と増加の様態などについて、歴史的な把握を試みた。とりわけ、満洲と朝鮮を中心に展開した大阪屋号書店のネットワークについて注目し、関係する資料の収集および考察を行った。これらについては緒に就いたばかりであり、次年度に続く課題となっている。
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