今年度は三年間の研究計画の最終年度に当たるため、個別の研究課題の進展をはかるとともに、全体の総括をするべく作業を行った。 まず個別の作業として、出版法制史研究会第5回例会において「外地への書物流通・序説--書店、取次、法制--」と題する研究発表を行った。これは、戦前の外地における日本書店の展開と、内地/外地を結んだ書物流通を考える本研究の課題に、出版法制史の問題系を交差させる試みだった。戦前外地の関連法規を横断的に比較検討し、総体を展望しようとした。またこの発表で積み残した課題は、近代文学系の研究グループ・不勉強会において、「戦前における外地/内地を結ぶ書物流通」として発表し、さらに展開させた。また、前年度研究報告をふまえて雑誌に発表した論考「境域から読めること--日系アメリカ移民の日本語文学--」をもとに、大幅に加筆発展させて「<文>をたよりに--日系アメリカ移民強制収容下の文学活動」を韓国で出版された論文集に発表した(韓国語訳されて発表)。強制収容所時代に発行された日本語雑誌の記事、創作を分析し、境域を越える<文(ふみ)>の働きを考察したものである。また2012年3月に上海の旧日本人街において内山書店を中心とする日本人書店についての現地調査を行った。復旦大学の李征氏などと意見交換も出来、有意義だった。 三年間のまとめの作業は、資料の整理、考察の統合などにおいて随時進めているが、まだ全体像を活字の形で報告するにはいたっていない。個別の研究はいずれも、先行の研究が手薄な領域においてなされた調査分析であり、先駆的な作業だったと評価しているが、総合的な研究報告を急ぎたい。
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