本研究の特徴は、労働者集団としての性格、すなわち同一事業所に属する労働者の平均学歴、平均勤続年数や男女比を考慮した賃金関数の推定を、雇用者・被用者マッチデータを用いて国際比較を行う点にある。平成23年度には、平成22年度に利用した賃金構造基本統計調査、雇用動向調査、労使コミュニケーション調査、就労条件等実態調査のマッチデータを用いた分析をさらに進め、別途毎月勤労統計調査についてもマッチデータを作成した。 労使コミュニケーション調査と賃金構造基本統計調査との接合データについては、分析結果を携え4月にColgate大学を訪問し議論した。その成果の一部はNew Yorkで行われたJapan Economic Seminarで議論された。賃金構造基本統計調査と雇用動向調査を用いた分析では、効率賃金仮説に基づいた2部門モデルを用いて賃金格差の拡大を議論した論考を完成させ、英文雑誌に投稿した。上記の諸データはその接合率から全体に比較して特定の事業所だけを選択している可能性は否定できない。この点を確かめるために、就業構造基本調査、賃金構造基本統計調査、雇用動向調査、毎月勤労統計調査を各々単独で使用し、全体像を把握することに努めた。就業構造についての考察の一部は研究協力者のとの共同研究として『海外社会保障研究』に掲載された。賃金構造についてはその成果の一部が『経済研究』に掲載され、別の一部をTallinnで行われたEuropean Association of Japanese Studies 2011で報告した。雇用動向については雇用動向調査を用いた分析について検討し、毎月勤労統計調査を用いた分析については現在論考を準備中である。
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