平成22年度は、研究計画書に記載した5つの研究プロジェクトのうち、以下の3つの研究プロジェクトについて実験によるデータ収集を行った(他の2つのプロジェクトについても、昨年のデータの解析、文献調査などを実施した)。 (1)コストリー・シグナリングとしての謝罪に関する研究プロジェクトでは、意図せずに他者に不公正なふるまいをした者が、コストをかけて謝罪する傾向があることを確認し、コストのかかる謝罪を導く至近要因が罪悪感(guilt)と恥(shame)の両方を含む感情であることを確認した。この結果は、間接互恵性のモデルによる安定的な協力行動の説明に対して実証的な証拠を提供するものである。 (2)お世辞・賞賛研究プロジェクトについては、下心が疑われない状況で行われる賞賛には、相手からの金銭的返報を引き出す効果があることを確認した。この知見は、脳神経科学の研究で得られた、賞賛が経済的資源と同様に人間の脳内の報酬系を賦活するという知見から予測される結果である。つまり、賞賛と経済的資源が脳での処理上等価であるならば、いずれの資源も互恵的返報を導くと予測された。 (3)求愛シグナルに関するプロジェクトでは、パートナーに新しい相手ができそうな場面(つまり、ふられそうな場面)をプライミングすることにより、男性の求愛シグナル傾向を強化することができることを確認した。この知見は、コストのかかる求愛シグナルがパートナー保持戦略のひとつであるとする進化心理学のアイデアを支持するものである。
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