平成24年度には、平成23年度の研究の継続と完了を目指して研究を行った。具体的には、自己罰傾向とオキシトシン受容体遺伝子多型の関連について追試実験を行い、平成23年度に得られた予備的結果の妥当性を確認した。実験の結果、オキシトシン受容体遺伝子のG型をもつ者ほど意図せぬ不正行為の後に自己罰を行いやすいことが明らかになった。この結果は、平成25年度に学会発表の後、学術雑誌に投稿予定である。また、同じ実験から自己罰傾向がshame傾向と相関することも明らかになった。従来、謝罪や自己罰の至近要因としては罪悪感(guilt)が想定されてきたが、謝罪や自己罰といった対人的違反場面におけるシグナルの至近要因が社会的受容に関わるshameであることを明らかにしたこと、そしてそれがオキシトシン受容体遺伝子多型とは独立に自己罰を規定していることを明らかにしたことは、本研究の極めてユニークな貢献であると考えられる。 また、対人的な謝罪のシグナル機能の検討という点では、関係の重要性がシグナルにかけるコストを上昇させるという知見を場面想定法実験により得た。上記の研究と合わせて、対人的違反場面でのシグナルの機能と至近メカニズムの解明が進んだと考えている。 同じく平成23年度のフォローアップ研究として、社会的注意がパートナーの応答性の知覚を上昇させるという知見を、2つの追加研究により確認した。パートナーの応答性の知覚は、親密な関係の発展にとって重要な要因であり、最終的には相手の価値を高めると考えられる。したがって、これらの研究は、いずれも健全な関係の発展及びその関係が危機に直面した場合の対処行動に関わるシグナルの意義を検討したことになる。これらの知見は、社会における絆という非物質的資源を増進に資するものである。
|