本年度の研究成果は二つあり、一つは単位円盤上のアーベル多様体の族の相対コンパクト化、もう一つはflopの停止問題である。以下、各成果について順に述べる。相対コンパクト化とは、穴あき円盤上にsmoothな代数多様体の族があった場合、それを円盤全体の族に拡張する、というものである。はじめに与えられた族がアーベル多様体の族であった場合、この問題は1960年代からさかんに研究されており、いくつもの結果があるのだが、双有理幾何の立場から満足のいく解答は与えられていなかった。ここで以前からの結果の不満な点というのは二点あり、一つは得られた相対コンパクト化が射影的な族であるかどうかわからないという点、もう一点は単位円盤上のアーベル多様体の族が与えられたとき、その族を原点を除いた穴あき円盤上に制限することで穴あき円盤上のsmoothなアーベル多様体の族が得られるのだが、これを元にして相対コンパクト化を考えたとき、元の族との関係が全くわからない、という点である。本年度の研究で上記二点に対して満足のいく解答を与えることが出来た。結果を述べると、単位円盤上のアーベル多様体の族で切断を持ち、モノドロミーが巾単であるとき、それと双有理な族でsemistableかっ射影的であり、原点でのファイバーの双対グラフはトーラスと同相、またファイバーの各既約成分は皆同型でtoric多様体とアーベル多様体で構成されるものが存在することを示した。続いて二つめの結果について述べる。代数多様体の間の双有理射で例外集合の余次元が大きいもので、ある数値的条件を満たすものをflopと呼ぶ。本年度の結果はシンプレクティック多様体から出発するflopの無限列は存在しないことを示した。この結果は今後いくつかの応用が見込まれる。
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