本研究の対象は、可算離散群による確率測度空間への作用で測度を保存するようなものである。そのような作用からできる軌道の構造を調べることを目的としている。この軌道構造の研究は、作用からできるフォン・ノイマン環の同型問題と密接に関連している。近年では、幾何学的群論や組み合わせ群論等の様々な群論の技術を通した研究が現れ始め、軌道構造の研究は多くの研究者の興味を引く課題である。私は特に、群の性質が作用の軌道構造にどのような影響を及ぼすかという問題に関心を持っている。 本年度は、組み合わせ群論において基本的な対象であるバウムスラッグ・ソリター群(BS群)に焦点を当て、その作用の軌道構造を調べた。BS群の特徴的な性質の一つは、擬正規であるが正規ではない無限従順部分群を含むことである。正規である無限従順部分群を含むことは、これまでの研究でも鍵となった性質であり、そのような部分群を含む群と与えられた群が軌道同型になるかどうかを調べることは、軌道構造の理解には欠かせないステップである。BS群は正規である無限従順部分群を含まない。そこで、BS群がそのような部分群を含む群と軌道同型になるかどうかが問題となる。本年度の研究では、この問題を肯定的に解決した。具体的には、BS群がそれ自身と整数群の直積と軌道同型になることを証明した。もっと強く、BS群が安定的な作用をもつことを証明した。 安定的な作用をもつ群を特徴付ける問題は、Jones-Schmidtにより提起されたが、長年解決されていなかった。彼らは、群が安定的な作用をもつためには群が内部従順であることが必要十分であると予想した。BS群の研究の延長として、この予想の反例を与えた。この反例は無限の中心をもつ(T)群のHNN拡大として構成される。
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