我々はこれまでに初代星の原始星の形成過程のシミュレーションに成功しているが、宇宙のその後の進化への影響を見積もるためには原始星の誕生時の性質ではなく初代星が最終的にどのような質量の星として形成されるかの情報が必須である。そこで今年度は原始星の降着進化を計算した。降着を止める機構としては原始星からのフィードバックが重要であるので、中心の原始星の進化を星の進化コードを用いて計算しつつ、周囲のガスの降着過程を輻射流体シミュレーションにより解析した。ただし、今回の計算では計算時間の関係で、軸対称を仮定した2次元計算を行った。この結果、星の周りに形成される電離水素領域が中心星の成長にともなって徐々に両極方向に成長し、開口角も大きくなるのが見て取れた。同時に紫外線に対して剥き出しとなった降着円盤とその周囲のトーラス状の構造が電離によって数万度に加熱をうけ、星・円盤系からの脱出流となって蒸発する。中心星が42太陽質量となった時点では、円盤は激しく蒸発しており、原始星への降着率はフィードバックのない場合の値よりも一桁以上下がる。計算から円盤の光蒸発のため宇宙初代星の質量は典型的には~40太陽質量に留まることが分かった。これまで初代星は>100太陽質量の超大質量であると考えられてきたが、その場合に起こる対消滅不安定超新星から放出される重元素組成比はハロー中にある低金属度星の重元素組成比の観測と矛盾するという問題があった。数10太陽質量の初代星からの重元素組成比の場合は観測とよく一致するので、この組成比の問題を解決することができる。 初代星の質量がこれまで以上に信頼性をもって予言できたことは、その後の宇宙や銀河の進化をより詳細に議論する道を開いたといえる。
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