2010年度は単一カーボンナノチューブ架橋型トランジスターにおけるフォトルミネッセンス測定を中心に研究を進めた。 単層カーボンナノチューブに電極からスピンを注入し、フォトルミネッセンスを利用して電子スピンを検出するためには、単一の単層カーボンナノチューブを架橋型トランジスター構造に組み込む必要がある。溝と電極をあらかじめ加工した基板上に触媒を配置し、アルコール化学気相成長により単層カーボンナノチューブを合成した。このように最後に合成を行うことにより、カーボンナノチューブは清浄な状態に保てるため、発光効率が高いためにフォトルミネッセンス測定に適しており、その本来の特性を測定できることが期待できる。蛍光画像と励起分光を用いて単一のナノチューブであることを確認し、その発光スペクトルのゲート電圧依存性を調査した。印加電圧により発光エネルギーがわずかであるが高くなり、また、発光強度が指数関数的に減衰する様子を捉えた。過去の研究では、ゲート電圧による高次のバンドのエネルギーが低下するということが報告されている。キャリアを誘起することによって遮蔽効果が強くなるため、再規格化によるバンドギャップの縮小と励起子束縛エネルギーの低下が起き、前者が後者をやや上回る形で発光エネルギーの低下が起きるという解釈がされている。今回観測された、最低バンドにおける青方変移の原因はまだ明らかではないが、第一原理計算では高エネルギー側へのシフトが予測されており、上で述べたような二つの効果のバランスが微妙である可能性もある。 また、スピンの光検出に向け、低温磁場中でのフォトルミネッセンスを実現する装置の設計・作製に取り組んだ。電磁石により200mTの磁場を印加可能で、温度5Kまで冷却可能であり、なおかつデバイスへの配線を導入できる顕微分光装置を立ち上げている。
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