本研究課題では、様々なパターンで変動する誘導環境を入力情報としたときの、幹細胞の分化運命決定の情報処理ロジックを明らかにすることを目指している。そこで、(1)変動する分化誘導環境を自在に作り出し、幹細胞の分化応答を1細胞レベルで計測できるシステムを立ち上げること、(2)このシステムを用いて、マウスES細胞をモデルシステムとして、分化応答の入出力応答を定量計測することという2つを実現したい。平成22年度の成果は以下である。 1.2つの培養環境を任意の条件で変化させられる灌流システムの構築 本研究課題を遂行するには、様々な時間変化パターンを示す分化誘導条件を自由に作ることが必要となる。例えば2つの環境が交互に入れ替わる場合であっても、1時間おきに変化する場合と、10時間おきに変わる場合では、分化応答は大きく変わってくるだろう。2つの環境条件を実験者側から制御した形で入れ替えるために、2つのプログラマブルシリンジポンプとストップバブルを組み合わせた自動送液システムを立ち上げた。これを昨年度までに立ち上げた灌流デバイスと組み合わせることで、周期のことなる環境変動下で、細胞の応答を1細胞レベルで計測できるシステムを構築した。 2.Nanog-GFPを発現するES細胞の1細胞計測 昨年までに構築した灌流デバイスを用い、未分化マーカーNanogのプロモーターからGFPを発現するマウスES細胞株の1細胞計測を進めた。これまでに、未分化状態を維持する培養液を流し続けることで、一定の培養環境下におけるGFP量の細胞内変動を計測している。この計測により、未分化維持環境における分化ポテンシャルの変動や、自発分化をする細胞の割合を明らかにできると期待される。
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