研究課題
本年度は蛇紋岩の異方性に関する実験を行い、沈み込み帯での地震波異方性から蛇紋岩の分布を推定した。地震波異方性は地球内部での弾性的に異方性を持つ鉱物が選択配向しているためと考えられるが、沈み込み帯で観察される異方性は地域によりその特徴が顕著に異なる。例えば、東北日本では前弧域に報告されている海溝に平行な異方性の遅延時間が0.1~0.2秒なのに対し、琉球弧では異方性の方向は東北日本と同じく海溝に平行に向くが、遅延時間は1~2秒と非常に強い異方性が報告されている。本研究では、琉球弧で観測される異方性が蛇紋石の選択配向に起因するとの仮説を唱え、それを検証する変形実験を固体圧変形試験機を用いて行った。試料は四国三波川帯の蛇紋岩を用い、圧力1GPa、温度300-500℃で蛇紋岩(アンチゴライト)を変形させ、回収試料の結晶方位を静岡大学のEBSDで解析した。その結果、蛇紋石中の最も地震波速度が遅いc軸が剪断面に垂直に配列し、異方性の強度はS波で最大32%に達することが分かった。琉球弧のように高角でスラブが沈み込む場合は、地震波速度の遅いc軸がスラブに垂直に配列するため、地表面では海溝に平行な異方性が期待される。また、その強度は約15%に達し、かんらん石に比べ1桁ほど強い特徴を持つ。そのため、厚さ10km程度の蛇紋岩層がマントルウェッジに分布すれば、1~2秒の遅延時間が期待され、琉球弧で観察される地震波異方性の特徴を説明することができる。一方、東北日本で観測される比較短い遅延時間は、蛇紋石ではなく、かんらん石の異方性に起因している可能性が高い。両地域で異方性の強度が異なる原因としては、琉球弧では比較的高温のスラブが沈み込むため、水が比較的浅所でマントルウェッジへ放出され蛇紋岩が存在するのに対し、東北日本では冷たい太平洋スラブが沈み込むため、脱水がマントル深部に限られ前弧マントルウェッジは蛇紋岩化していないためと考えられる。
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