研究概要 |
沈み込むプレートにより地球内部へ輸送される水は、温度上昇に伴う脱水反応の進行によりマントルへ放出され、プレート境界上に蛇紋岩を形成すると予想される。本研究課題では、蛇紋岩がプレート境界に存在する場合にどのようなレオロジー特性を持つか,以下の2点に注目して取り組んだので報告する。 (1)蛇紋岩の変形特性と地震発生帯の下限 沈み込み帯でのプレート間地震の発生下限は、一般に温度に敏感で350-400℃の脆性塑性境界に一致すると考えられているが、東北日本の一部などではプレート境界面温度が150-250℃に相当する陸側のモホ面深度で地震発生帯が消滅する。プレート間地震の発生限界が低温領域でみられる原因としては、モホ面下のマントルウェッジが含水化し、蛇紋岩が形成している可能性が報告されている。我々は、このモデルを検証するために、東北日本のような冷たいプレートが沈み込む条件(1GPa,200一300℃)で蛇紋岩の変形実験を行なった。その結果、蛇紋岩には脆性的な破壊はみられず延性的な流動により変形が支配されることを見出した。このことは、プレート境界に蛇紋岩が存在する場合には弾性的な歪みは蓄積されず、プレート間地震の発生を抑制する働きがあると推察される。 (2)プレート境界でのカップリング・デカップリング マントルウェッジとプレート間でのカップリング/デカップリング問題は、マントルウェッジがどの深度までコナーフローによりドラッグされ対流に巻き込まれるかを支配し、沈み込み帯での物質循環や温度構造を議論する上で極めて重要である。我々は、蛇紋石とかんらん石の粘性比を検証するために、両者の鉱物を同時に変形させ強度比を直接決定する実験を行なっている。その結果、高温型の蛇紋石(アンチゴライト)はかんらん石に比べ約半分ほどの強度を示すのに対し、低温型の蛇紋岩の強度は著しく低く、かんらん石に比べ1桁ほど低い粘性率をもつ。このことは、高温型の蛇紋岩が沈み込みプレート境界に存在する場合はほぼカップリングした状態なのに対し、低温型の蛇紋岩では強いデカップリングが引き起こされることを示唆している。
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