天体は遠く離れており、その状態(温度や密度)を直接測定したり、能動的に変化させることは出来ない。天体観測で得られたデータの解釈には理論モデルとシミュレーションを用いた解析が欠かせない。理論モデル、シミュレーションの信頼性は実験データとの比較検証を経て初めて保証される。しかしながら、ブラックホール周囲のような極限的な環境を実験室で再現することは困難であり、その理論/モデルの検証は不十分であった。今年度得られた成果は以下の通りである。 ・ ブラックホール周辺からの高輝度X線放射を再現するために、高出力レーザー「激光XII号」を用いた爆縮プラズマの利用を考案した。 ・ ブラックホール周囲で観測されている「光電離」と呼ばれる現象を実験室で発生させることに成功し、天体観測データと良く似たX線スペクトルを実験室で生成した光電離プラズマから取得した。 ・ 実験データの解釈は天文学における従来のものとは異なることが明らかになり、天文学にモデルの再考を促す結果が得られた。 ・ 既存の研究手法である理論・シミュレーションと観測に加えて、高出力レーザーを用いた模擬実験が新しい天文学の研究手段となることを実証した。 この成果はプラズマ物理分野のみならず、天文学の分野でも大変注目されており、招待講演の依頼が殺到している。天文学者との交流を通じて、当該研究は更に飛躍すると期待している。
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