研究概要 |
本研究課題の目的は,特殊な分子間相互作用によって室温で液体となる新しいタイプの塩「室温イオン液体」の分子間振動ダイナミクスをフェムト秒分光法とテラヘルツ時間領域分光法で観測し,微視的な分子間相互作用を解釈し,イオン液体を包含する新しい液体論・溶液論の基礎を作ることである。本研究では,イオン液体の特異な分子間相互作用が反映される分子間振動(微視的な分子レベルでの分子間相互作用)とバルク物性を比較し,その関係を明らかにすることを試みる。また,さらに踏み込んで,イオン液体の分子間振動におけるイオンの分極率と双極子における二つの因子に注目し,微視的な分子間相互作用への影響についても検討する。 当初,平成22年度は,新規に導入したレーザーを光源としたフェムト秒光カー効果分光装置の大掛かりな改良とテラヘルツ時間領域分光装置の作成を予定していたが,研究の継続性・進行状況を考慮して,フェムト秒光カー効果による測定に特化して研究を行うことにした。特に注目したのが,非芳香族系イオン液体の重原子置換効果や芳族イオン液体のアニオン依存性、モノカチオン型イオン液体とジカチオン型イオン液体について検討である。また,イオン液体の特異的な分子間相互作用を比較するために特徴的な水素結合を持つ会合体(7-アザインドール)の検討も行った。昨年度発表した分子性液体のデータベースと比較して,イオン液体は芳香族系カチオンと非芳香族性カチオンでは,分子間振動と分子間相互作用の関係が大きく異なることが明らかになりつつある。 来年度以降は,光源の適正を考慮に入れ,新規に導入したレーザーを光源としてフェムト秒光カー効果分光装置を改良し,また,現存のレーザーを光源として,時間領域テラヘルツ分光装置を作成していくことに主眼を置く。
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