研究概要 |
本研究課題の目的は,特殊な分子間相互作用によって室温で液体となる新しいタイプの塩「室温イオン液体」の分子間振動ダイナミクスをフェムト秒分光法とテラヘルツ時間領域分光法で観測し,微視的な分子間相互作用を解釈し,イオン液体を包含する新しい液体論・溶液論の基礎を構築することである。本研究では,イオン液体の特異な分子間相互作用が反映される分子間振動(微視的な分子レベルでの分子間相互作用)とバルク物性を比較し,その関係を明らかにすることを試みる。また,さらに踏み込んで,イオン液体の分子間振動におけるイオンの分極率と双極子における二つの因子に注目し,微視的な分子間相互作用への影響についても検討する。 今年度は研究の継続性・進行状況を考慮に入れ,フェムト秒光カー効果分光による研究を推進した。昨年度は,分子液体についてバルク物性と低振動数領域のスペクトルの相関を初めて見出した。今年度は,イオン液体について検討し,芳香族カチオン型イオン液体と非芳香族型イオン液体では,この相関が全く異なることを明らかにした。この研究成果は,ChemPhysChemに総説としてまとめている(VIP:very important paperとして選ばれた)。また,ジカチオン型イオン液体の基礎物性と低振動数領域のスペクトルに関する報告も行い,基礎物性に関する報告(J.Chem.Eng.Data)は1年間のMost Read Articlesにランクしている(H24年3月現在)。 上記以外の成果として,海外を含む幾つかの研究グループとイオン液体の遅いダイナミクスや構造に関する共同研究に発展し,今年度は,論文として発表することができた。一方で,フェムト秒光カー効果分光装置を長時間安定に測定できるように改良も行い,対称性に特徴のある分子液体や水素結合会合体の測定も行った。一方で,分光装置の時間分解能は若干悪くなり,これについては現在,検討中である。
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