研究概要 |
本研究課題の目的は,特殊な分子間相互作用によって室温で液体となる新しいタイプの塩「室温イオン液体」の分子間振動ダイナミクスをフェムト秒光カー効果分光法とテラヘルツ時間領域分光法で観測し,微視的な分子間相互作用を解釈し,イオン液体を包含する新しい液体論・溶液論の基礎を構築することである。本研究では,イオン液体の特異な分子間相互作用が反映される分子間振動(微視的な分子レベルでの分子間相互作用)とバルク物性を比較し,その関係を明らかにすることを試みている。また,さらに踏み込んで,イオン液体の分子間振動におけるイオンの分極率と双極子における二つの因子に注目し,微視的な分子間相互作用への影響についても検討している。 本年度に新しく展開させた研究に,イオン液体と通常の溶媒の混合溶液の研究がある。これは,イオン液体を反応媒体として考える上で,非常に重要だと考えられる実験系である。極性が高くかつ水素結合を行う水(Journal of Physical Chemistry B, 2012, 116, 13765)と非極性だが分極性の高いベンゼン(投稿中)について検討を行い,イオン液体中の微視的な構造や分子間相互作用において両者の溶媒で大きな違いがあることをフェムト秒明らかにしている。 また,本研究プロジェクトで開発したイオン液体を中心にして,国内外の大学・研究機関との共同研究にいくつも発展した(論文として5報)。今後もこのような共同研究が続いていきそうな研究展開になりつつある。 一方で,本研究プロジェクトで作成したフェムト秒光カー効果分光装置を用いて,イオン液体以外の複雑な分子系や溶液系についての研究についても現在発展させており,近々,その研究成果を発表することができそうなところまで研究を進めることができた。
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