本研究は、光合成・視覚・発光などの光過程において、励起状態における機能発現と分子間相互作用の関わりを、理論的に明らかにするために、分子の励起状態と周辺環境の分子間相互作用理論を高度化することを目的としている。平成22年度においては、昨年度に引き続き、以下の研究を進めた。 (1)励起状態における分子間相互作用における量子的効果の評価:これまで励起状態における分子間相互作用はたかだか古典的静電相互作用のレベルで評価されてきた。そこで本研究では大規模な量子化学計算を行うことで、量子的効果について評価を行った。題材には脱プロトン化レチナールシッフ塩基(DPSB)のオプシンシフトを選んだ。量子化学的に取り扱う領域を拡大しながら、DPSBの励起エネルギーが収束する様子を確認した。その結果、点電荷モデルでは全く変化が起きなかったのに対し、DPSBから3Å程度までに存在する蛋白質分子の効果が大きく、メタノール溶液で0.10eV、bR蛋白質で0.25eV程度の赤方シフトが計算された。更に、5Åまで拡大しても効果は0.02eV程度であり、電子的な効果が及ぶ領域を限定することができた。 また、本研究で媒体の効果を公平に扱うことができたので、DPSBのオプシンシフトについては構造変化が重要であるとう結論を得ることができた。 (2)参照軌道を利用する分子軌道の局在化法の開発:(1)の結論を受けて、周辺アミノ酸の効果を詳細に研究するための手法を考案した。予め定めた参照軌道を用いて、分子軌道をユニタリー変換し、参照軌道によく一致する軌道に変換する方法である。これにより、予め指定した空間領域に局在化する分子軌道をえることができる。この軌道を用いれは、DPSBの電子励起に応答するアミノ酸部位を容易に特定できる。
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