ナノスケールのシリコンは、シリコンの安価で資源量が豊富という利点に加えて、バルクのシリコンに比べて高い発光効率を示すことから、発光デバイスとしての利用が期待され盛んに研究されている。しかしながらハイスペックなデバイスを作製する上でナノスケールシリコンに関する基礎的な理解が重要であることが容易に想像されるも、未だ発光の起源は解明されていない。これは発光のメカニズムについて議論している報告の多くが単離されたナノスケールシリコンを分析対象としていないためである。本研究ではナノスケールシリコンの発光起源を明らかにする糸口としてシリコンクラスターに対して有効な精製作業を模索するとともに、発光特性のチューニングに取り組んだ。珪化マグネシウム(Mg2Si)をオクタンに懸濁させ、これに臭素(Br2)を加え加熱還流することでシリコンクラスターを調製した。調製したクラスターはゲル浸透クロマトカラムにより3つのフラクションに分離した。流体力学直径にしておよそ1nm-9nmのクラスターを分離できるよう、カラムは分画分子量500-20000DaのWaters社製Styragel HR2を使用した。移動相にはトルエンを使用し、流量は0.5ml/minに設定した。透過型電子顕微鏡観測(TEM)より、粒径はそれぞれ4.4±1.22nm、2.0±0.54nm、1.8±0.97nmであり、ゲル浸透クロマトグラフィーの原理と矛盾ない結果が得られた。またXPSで分析した結果、珪素の酸化が認められた。XPSは固体・液体試料表面から数百pmないし数nmの深さまでの層に関する情報を得る分析手法である。したがって、今回の結果は生成物が表面被酸化、あるいはコアまでもが酸化されたシリコンクラスターであることを示唆している。つぎに、生成物をクロロホルムに溶解し、紫外可視吸収スペクトルと発光スペクトルを測定した。励起光には280nmの紫外線を使用した。サイズ減少とともに吸収端は短波長側へシフトし、極大発光波長もまた短波長側へシフトした。サイズ減少に伴いクラスター内の電子状態が離散化しバンドギャップが大きくなったためと解釈した。
|