研究計画において目的に掲げた(1)ボリルアニオンの化学、(2)ボリルラジカルの発生検討、(3)塩基安定化ボリレンの合成、のうち、平成21年度は(1)および(3)に関する検討を行った。 (1)では、ボリルリチウムとベンズアルデヒドの反応によるBora-Brook転位反応を発見した。ここではボリルアニオンがアルデヒドに付加した際に発生するアルコキシド中間体が分子内でホウ素原子を求核攻撃することで、骨格転位したカルボアニオンが発生することを重水素化実験等により明らかにした。一方、ボリルシアノクプラートとアルキン、炭素求電子種との連続反応によるカルボホウ素化の開発を達成した。ここではボリルシアノクプラートの構造を初めて明らかにしたことに加えて、アルキンに対してボリルシアノクプラートが付加をして発生するアルケニル銅中間体が、炭素求電子種と反応することで4置換ボリルアルケンが得られることがわかった。 (3)では、分子内にオキサゾリンまたはアミノ配位子を有するアミノジフルオロボランを合成し、これを還元することで塩基安定化ボリレンの発生を検討したが、予期せぬ転位反応によって、目的とした塩基安定化ボリレンは得られないことがわかった。現在は計算化学のサポートを受けながら骨格を新しくデザインして再検討を行っている。 上記2項目に加えて、21年度は新規含ホウ素多座配位子を新たに合成し、これを用いてイリジウムおよびロジウムボリル錯体の合成を行った。これらのボリル錯体はその金属中心において配位子置換反応や酸化還元反応が可能であり、ボリル錯体においてボリル配位子が支持配位子として機能した初めての例となった。また、ロジウム錯体においては、炭化水素活性化反応の中間体モデルとなり得るT字型14電子錯体を単離することに成功し、これが窒素分子やエーテル分子と容易に反応することも明らかになった。次年度はこれらの錯体の性質の解明も視野に入れて検討を行う。
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