近年のナノ材料開発の進展によって、ナノチャンネル内におげる特異的物質輸送を利用した物質分離手法の開拓が進行している。本研究では、これまでに開発を進めてきたナノチャンネル集積(NCA)膜を用いた物質輸送現象の本質を分子論的に理解し、NCA膜を横断する物質輸送のリアルタイムモニタリング手法を開発することで、ナノチャンネル内物質輸送に立脚した分離分析システムの提唱と実分析への応用、特にキラル分離への応用を目指している。 本年度は、ナノチャンネル内での物質輸送に大きな影響を及ぼすナノチャンネル内のプロトン濃度について、一連の蛍光性pHプローブを用いた実験を行うことで、世界で初めてプロトン濃度の概算値についての知見を得ることが出来た。また、キラル分離を行うために必要なキラルセレクターの合成とナノチャンネル内への固定化を達成した。得られた材料は、次年度からの物質輸送現象解明に供する予定である。また、ナノチャンネル内部を移動する溶質分子の流れをリアルタイムで光学的に計測するための新規手法について検討した結果、NCA膜を金属薄膜上に形成させることで発現する光導波路応答が、有効であることを実証した。特に、ナノチャンネル内での物質拡散の定量的な評価を可能とする計測法である。さらに、PDMS流路とNCA膜を組みあわせた微小流路系で安定的かつ高感度な計測が可能であることを見出した。以上、ナノチャンネルを利用したキラル分離を達成するための基礎的知見を取得し、材料と計測法に関する技術的進展を達成した。
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