高分子材料の濡れ、吸着、接着、生体適合性といった機能特性は異種媒体との界面において発現する。したがって、異種媒体界面における高分子の構造と物性を正確に理解し、制御することは、学術的な興味はもちろん、高度に機能化された材料の創成へと繋がる。今年度は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と代表的な非溶媒である低級アルコールの組み合わせに着目し、非溶媒による高分子薄膜の膨潤構造に関する更なる検討を行った。試料として数平均分子量(M_n)が296k、分子量分布(M_w/M_n)が1.05の重水素化PMMA(dPMMA)を用いた。非溶媒にはメタノール、エタノール、1-プロパノールを選択した。dPMMA薄膜は、PMMAのトルエン溶液から石英基板上にスピンキャストすることで製膜した。膜厚は60-70nmとし、製膜後423Kで24hr熱処理した。アルコール下におけるdPMMA膜の構造は、中性子反射率(NR)測定により評価した。用いた全てのアルコール分子は非溶媒であるにもかかわらず膜中へ浸透し、それに伴い膜は厚化した。アルコールとの界面厚は空気との界面厚と比較して拡がっており、その程度は膨潤度に比例した。また、石英基板界面においては、(b/V)値の低下が観測された。これは、基板界面にアルコール分子が濃縮したことを示している。アルコールの炭素数の増加とともに、膜の膨潤率は低下した。これは、炭素数の増加に伴うヒドロキシル基の数密度の低下および分子サイズの増大のためであると考えられる。溶解度パラメータ(δ)から相互作用パラメータ(χ)を算出し、dPMMAと各アルコールとの相互作用を見積もることも可能となった。膜の膨潤度はχパラメータに比例したが、石英基板界面におけるアルコール分子の過剰量はχに依存しなかった。これらの結果は、高分子と非溶媒分子の相互作用における格子モデルの適用限界を示している。
|