高分子材料の濡れ、吸着、接着、生体適合性といった機能特性は異種媒体との界面において発現する。したがって、異種媒体界面における高分子の構造と物性を正確に理解し、制御することは、学術的な興味はもちろん、高度に機能化された材料の創成へと繋がる。本年度は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と代表的な非溶媒である低級アルコールの組み合わせに着目し、非溶媒による高分子薄膜の膨潤構造に関する更なる検討を行った。試料として数平均分子量(M_n)が296k、分子量分布(M_w/M_n)が1.05の重水素化PMMA(dPMMA)を用いた。非溶媒としてメタノール、エタノール、1-プロパノールを選択した。アルコール下におけるdPMMA膜の構造は中性子反射率(NR)測定により評価した。その結果、各アルコールはdPMMAの典型的な非溶媒であるにもかかわらず、明らかに膜中に浸入し、その膨潤の程度はアルコール分子のアルキル鎖長に強く依存した。これは、メタノールのモル体積がアルコールの中で最も小さく、メタノールがdPMMAの側鎖中にあるカルボニル基と高密度で水素結合することを考えると説明出来た。また、アルコール環境下におけるdPMMA膜の厚さは大気中での膜厚と比較して増加していた。また膜内部におけるアルコールの体積分率を用い、Floryの式を適用することで、dPMMAとアルコール間のxパラメータを算出することに成功した。また、アルコールと接したPMMA界面の厚さは空気界面におけるそれと比較して拡がっており、その拡がりはアルコールの炭素数すなわちxパラメータと関係があった。さらに、アルコール分子は膜に浸透し、基板界面に濃縮していた。また、基板界面側の濃縮量はアルコールの分子サイズで整理できたことから、エントロピー支配であることを明らかにした。これまで得られ成果を総括することで、非溶媒との接触界面における高分子の構造および物性の特異性、また、その発現機構を明らかにすることが出来た。
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