研究概要 |
ポリマーを巻きつかせることによる単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の構造分離はその分解能の高さにおいて非常に優れた方法であり、世界中で研究開発が進んでいる。しかしながら、その分離メカニズムの詳細はわかっておらず、効率の良い分離技術の確立には、さらに深く検討する余地がまだまだ存在する。昨年度までに、これまで報告例のなかったチューブ直径の大きな(約1.3nm以上)のSWCNTを選択抽出する高分子を見出したが、今年度はさらにその抽出のしやすさにポリマーとSWCNTとのエキシプレックス生成が関連していることを明らかにした。具体的には、フルオレン系高分子のひとつであるF8BT(poly(9,9-dioctylfluorene-alt-benzothiadiazole)が選択的に直径の大きな半導体SWCNTを抽出することを見出した。F8BTトルエン溶液の蛍光励起スペクトルを測定し、吸収スペクトルと比較したところ、励起スペクトルにおいて観測される2つのピーク波長は吸収ピークの裾に位置することがわかった。これは、F8BTの剛直性に由来するF8BT間でのエキシマー生成を意味する。さらに、このF8BTをもちいて抽出した半導体SWCNTの発光測定をおこなったところ、上述の励起ピークに近い515nmで光励起した場合、SWCNTの発光強度が大きくなることを見出した。しかしながら、この515nmという波長はF8BTエキシマーの吸収波長よりも少し長い(エネルギーが小さい)ことから、このSWCNT発光の原因は、これまでに報告されているF8BTからSWCNTへのエネルギー移動ではなく、F8BTとSWCNT間のエキシプレックス形成によるものであることがわかった。つまり、F8BTとの相互作用が大きなSWCNTのみが選択抽出されているという、抽出メカニズムを明らかにする上で非常に重要な知見を得た。
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