昨年度は、本来の基質に構造を似せた擬似基質(デコイ分子)として、パラ位に置換基を有するフェニル酢酸をP450_<BSβ>に添加することで、酸化生成物のキラリティーを反転させられることを明らかとした。さらに、1-メトキシナフタレンの芳香環水酸化反応が進行して、酵素のスクリーニングに利用可能な青色の色素を形成することを見出している。これまでに、P450_<BSβ>がデコイ分子を内包した結晶構造を明らかとしてきたが、昨年度は、過酸化水素駆動型のP450としては二例目となるP450_<spα>の結晶構造解析に成功した。P450_<spα>はP450_<BSβ>に比べて高分解の解析が可能な結晶が容易に得られる特徴があり、今後の研究の進展が期待できる。また、P450_<spα>に対してもデコイ分子を用いる手法が適用可能であり、さまざまな基質の酸化反応が進行することを見出している。昨年度は、非共結合相互作用を利用する系の開発を進めると共に、P450_<BSβ>を基質に似せた修飾分子により共有結合で修飾して自己完結型のP450_<BSβ>の開発を進めていたが、より安定で結晶化し易いP450_<spα>の修飾に切り替えて検討し、修飾対象とするアミノ酸のシステインが修飾可能な配置にあることを結晶構造解析により確認している。また、P450_<BSβ>のヘム近傍のカルボキシル基が結合する位置付近に、ミューテンションによりグルタミン酸を導入すると、デコイ分子を加えなくとも非天然基質の酸化反応が進行する自己完結型のP450_<BSβ>となることも見出している。
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