平成22年度は、デコイ分子(本来の基質に構造を似せた擬似基質)を利用することにより進行する非天然基質の一酸素原子添加反応が、過酸化水素駆動型のシトクロムP450_<spα>に対しても適用可能であることを明らかとすると共に、シトクロムP450_<spα>がデコイ分子としてイブプロフェンを取り込んだ結晶構造解析に成功した。R体のイブプロフェンをデコイ分子として用いると、スチレンのエポキシ化反応の立体選択性が89%eeにまで達する。一方で、S体のイブプロフェンは、R体とは反対のエナンチオマーを優先的に与えることを見出した。すなわち、デコイ分子のキラリティーが生成物の立体選択性に大きく影響する反応系を確立した。また、過酸化水素駆動型以外のシトクロムP450にもデコイ分子を用いるシステムが適用できることをシトクロムP450 BM3を用いることで証明した。シトクロムP450BM3に対して直鎖カルボン酸のすべての水素がフッ素に置換されたパーフルオロカルボン酸をデコイ分子として反応系に添加すると、野生型のシトクロムP450BM3がプロパンやブタンなどのガス状アルカンの水酸化反応を触媒することを明らかとした。さらに、プロパンやブタンの水酸化反応活性が、添加するデコイ分子の鎖長により大きく変化することを見出すとともに、プロパンの水酸化では炭素数が10のパーフルオロデカン酸が最大の活性を与えることを明らかとした。ブタンの水酸化では、炭素数が一つ少ないパーフルオロノナン酸を添加した時に最大の活性を与えた。これらのことから、対象とする基質に対して最適なデコイ分子を取り込ませることで、シトクロムP450BM3のガス状アルカンの触媒活性を制御可能であることを明らかとした。
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