これまでの流体運動の制御方法は、固体基板に表面エネルギー勾配を熱的、電気的、光学的、電気化学的もしくは化学的に設け、液体の濡れ特性の変化を利用するのが一般的であった。上記の制御方法の中でも化学的制御は高機能化が期待されるが、従来の手法では界面に高い界面エネルギーを備わっている必要があり、必然的に環境とは馴染めない物質を使用することになる。当該年度の研究において、我々は相変化過程で生じる界面エネルギーを利用して流体の運動を引き起す、新規な現象を発見した。従来の方法は、予め界面が保有している高い界面エネルギーを化学反応や物質の吸着により減少させ、その利得分を運動エネルギーに変換する方法であるが、我々の手法は、界面エネルギーをほとんど保有していない界面、すなわち環境とは非常に馴染みやすい2液相において、一方の相が持つ、自由エネルギーの変化を利用している。平衡組成とは異なる相を別の相に接触させると、その相が持つ初期の自由エネルギーと平衡の自由エネルギーとの大小に応じて界面が相変化し、それによって界面に界面エネルギーが発生し、Korteweg力と呼ばれる組成に依存する力が発生する。その力によってその相の周りに対流が発生し、相の重心移動が起こる。予め法有しているエネルギーを消費するのではなく、エネルギーを生み出し、運動エネルギーを生じるところに新規性がある。その運動挙動に及ぼす相の組成の影響を様々な水性二相系を用いて実験的に検討した。 その結果、以下のことがわかった。連続相の初期濃度が平衡濃度より高い場合は、形状が変化せずに液滴は等速度に並進運動を行い、小さい場合は、液滴の大変形をともなう並進運動が観測された。液滴相の初期濃度が平衡濃度より高い場合は、ほとんど変形せずに液滴は等速度に並進運動を行うが、低い場合は、運動がほとんど起こらなかった。
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