研究概要 |
スピノーダル分解過程で生じる界面エネルギーが,流体の巨視的な流れを生み出すことがわかった.液滴は平衡組成の大小関係で運動モードが変化し,通常の拡散とは異なり時間に比例した溶解過程が液滴運動時に見られた.また液滴はシミュレーション結果の不規則運動とは異なり,指向性の高い直進運動を示した.さらに濃度を変化させると生体細胞のような変形能を液滴が持ちうることが分かり,その液滴が弾丸形からパラシュート形に振動的に変化したり,液滴周りに渦対のような特異な流れが発生することにより,液滴が不可逆的に崩壊したりすることが分かった.水性二相系は界面エネルギーが非常に低く,大部分が水から構成されているために環境への負荷が小さい.そのためこの溶液系は,様々な環境中で使用することができる. この溶液系は初期状態において液滴を駆動する推進力を持ち合わせていないが,以下のような過程を通じて推進力が生じる.平衡とは異なる組成を持った2溶液を接触させると,その境界領域で相互溶解が起こり,物質移動による濃度勾配が発生し,そのために界面に過度的な界面エネルギーが発生する.その発生した界面エネルギーが環境媒体に対流を引き起し,液滴の自発的な運動を誘起する.この相互溶解過程で発生する対流現象は約100年前に理論的に予測されながら,包括的な実験例がほとんどなされていなかったために,我々の行った実験結果は研究意義が大きく,かつこの現象の解明に大きく貢献し,また理論の修正を促すものとなった.さらにこのKorteweg力に基づいて運動する物体をベシクルやマイクロカプセルに包含すると,生体内で自発的に運動するmicro vehicleの開発も可能であると考えられる.本年度ではこの新規の手法による分子集合体であるベシクルの駆動の発現および流れの発達の測定に重点を置いた.逆エマルション法で作成したベシクルの内水相に水性二相系の重相を,外水相に平衡組成とは異なるPEG相を用いると,ベシクルが自発的に運動することが分かった.
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