本課題ではマクロスケールで我々が開発した液滴の自発運動の化学的な制御方法をミクロスケールの分子集合体に適用可能かどうか検討を行った。運動の駆動力は、平衡から遠く離れた条件で、相互溶解性物質の混合過程で生じるKorteweg力を利用した。用いた分子集合体はDDABで構成するベシクルであり、Korteweg力を発現するには、内水相と外水相の組成が異なるベシクルを作製する必要性がある。この方法として、逆エマルション法を用いた。逆エマルション法は以下のとおりである。(1)油相に界面活性剤と水性二相系の重相を加えることにより、逆エマルションを形成する。(2)その逆エマルションを油相と同じ界面活性剤を含んだ水溶液と接触させると、比重の影響により、逆エマルションが沈降し、界面に形成された単分子層を通過する。(3)界面を通過する際に単分子層が逆エマルションの外膜に集積し、ベシクルを形成し、水相に移動する。(4)ベシクルを含んだ水溶液をマイクロスライドに導入し、平衡組成とは異なるポリマー水溶液と接触する。 外水相がPEG溶液、内水相がDEX溶液で構成するベシクルを逆エマルション法で作製したとき、ベシクルが自発的に並進運動を行い、ポリマー相側に向かって運動することが分かった。その運動の指向性は高く、ほとんど直線的に並進運動を行った。ときおり180℃方向転換し、往復運動する様子が観察できた。ベシクル内外にポリマー溶液の単純な濃度勾配や浸透圧が生じる状態でベシクルを作製した場合は、全く運動性を示さないことが分かった。ModelHを用いた数値計算により、マクロスケールにおける液滴の自発運動の実験結果を再現することに成功した。本実験は相分離が発生する条件下であれば、本実験で用いた物質以外でも、ベシクルを自発的に運動することができるため、非常に汎用性の高い手法である。また、逆エマルション法を用いれば、ベシクルの外膜を化学修飾することができ、ベシクルに膏度な機能を付与することがきる。
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