研究概要 |
人類の豊かな現代生活を支える有用物質は,天然資源に頼るには限度があるため,化学合成に大きく依存している.しかしながら現在の化学プロセスには,環境調和,省資源,安全性の観点から解決すべき課題はきわめて多い.持続可能社会の実現には,既存の化学プロセス,化学製品がもたらす環境負荷を大幅に低減する必要があるが,既知反応の改良では限界が見えている.全く新しい概念に基づく新反応の創成が急務である.そのような観点から本研究では,炭素,酸素,窒素-シアノ基結合(C-CN,O-CN,N-CN結合)を遷移金属/ルイス酸協同触媒によって活性化し,不飽和化合物,とくにアルケンを挿入させるシアノ官能基化反応を開発し,医薬中間体や機能材料の一般的合成手法として確立することを目指している.本研究で開発する反応は,いずれもこれまでの有機合成の常識では考えられなかった分子変換を実現するものであり,分子の逆合成に革新をもたらす可能性を秘めている.平成21年度は,アルケンの不斉分子内カルボシアノ化反応の研究過程において,アリールシアノ化反応がβ-水素脱離を伴って進行して,1.3-位にアリール基とシアノ基が導入されるという知見を得た.この反応は,これまでに全く前例のない新反応であり,抗ガン活性を有するアルカロイドのrhazinilamの高効率合成を達成した.また,アルケンの分子内不斉アリールシアノ化反応の基質適用範囲を精査し,ベンジル位に不斉四級炭素を有するインドリン誘導体の一般的合成法を確立した.
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