研究概要 |
人類の豊かな現代生活を支える有用物質は,天然資源に頼るには限度があるため,化学合成に大きく依存している。しかしながら現在の化学プロセスには,環境調和,省資源,安全性の観点から解決すべき課題はきわめて多い。持続可能社会の実現には,既存の化学プロセス,化学製品がもたらす環境負荷を大幅に低減する必要があるが,既知反応の改良では限界が見えている。全く新しい概念に基づく新反応の創成が急務である.そのような観点から本研究では,炭素,酸素,窒素-シアノ基結合(C-CN,O-CN,N-CN結合)を遷移金属/ルイス酸協同触媒によって活性化し,不飽和化合物,とくにアルケンを挿入させるシアノ官能基化反応を開発し,医薬中間体や機能材料の一般的合成手法として確立することを目指している.本研究で開発する反応は,いずれもこれまでの有機合成の常識では考えられなかった分子変換を実現するものであり,分子の逆合成に革新をもたらす可能性を秘めている.平成22年度は,O-CN結合の活性化を経る不飽和化合物のアルコキシシアノ化反応の開発を試みた。この研究過程で,ロジウム触媒存在下,シアノフェノレートと有機ホウ素反応剤を反応させると,炭素-ホウ素結合が炭素-シアノ基結合に変換され,極めて温和な条件下いろいろなニトリルが得られるという知見を得た。シアノ化剤を用いる従来のニトリル合成は,シアノ基を求核的に導入する手法が支配的であったのに対し,この反応は,シアノ基を求電子的に導入する新しいニトリル合成法である。反応条件がきわめて穏和で官能基許容性が高いので,さまざまなニトリルの合成に応用できる可能性を秘めている。
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