本研究は新しい電気的な手法による新規超伝導体の発見を目指している。本年度の研究では前年度に発見したKTaO_3の超伝導について二次元電子ガスの電子状態の解析を進めた。また、本手法の問題点として新たに電気化学反応に着目し、SrTiO_3を用いた研究を行なった。 KTaO_3は従来、超伝導にならないとされてきた材料である。我々は電気二重層トランジスタという新しい電子デバイスをこの材料にたいして開発してきた。その結果、昨年度にはこの材料で初めて超伝導を実現した。SrTiO_3での研究から結晶格子あたりの電子濃度は0.1個程度と見積もられていたが、超伝導相図の作成には定量的な電子濃度の見積もりが必要である。そこで、本年度はホール測定から得られる面電子密度に電子状態計算を組み合わせることで電子密度の定量的な計算を行なった。その結果、超伝導が起きる状態では4×10^<20>cm^<-3>以上のキャリア蓄積が起きていることが分かった。このキャリア密度は不純物ドーピングでKTaO_3に誘起可能な密度の二倍以上であり、電場誘起による高いキャリア濃度が超伝導の鍵になったことがわかった。 さて、電気二重層トランジスタは電解液と半導体の界面での高濃度キャリアを用いるため、高いゲート電圧の印加によって電解液に電気化学反応がおき、しばしばデバイス破壊が観察されていた。そこで、意図的に高電圧を加えることで、どのようにデバイス破壊が起きているかを詳細に観察した。その結果、SrTiO_3ではゲート電圧4V以上で急激に電気化学反応が起きており、また電気化学反応とともに表面で不可逆な欠陥生成が起きていた。さらに、この欠陥生成とともに表面には数ナノメートルの高さの凹凸が生じており、デバイス破壊の状況を可視化できることがわかった。今後、さらに研究を進めることでより高い電圧まで安定なデバイス動作が得られると期待される。
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