本研究は、ケルビン力顕微鏡(KPFM)が表面電位として与える測定量に対して、正当な物理解釈を導き出すことを目的とする。得られる成果は、ナノスケールの局所電位や電荷分布の違いが重要な要素となる、触媒作用、電子放出、摩擦、粘着等の、表面現象の理解とその応用を進展させる。平成21年度は、KPFMによる電位計測システムの構築、電位分布をナノスケールで規定した有機単分子膜の作製、有機分子の電気双極子が有機単分子膜の電位像コントラストに与える効果の解明、を目標とした。 現有の超高真空槽には、KPFM測定用のステージと試料交換機構を組み込んだ。さらに、真空装置の試料準備室には、巨視的な仕事関数を計測できるケルビンプローブを配備した。均質な単分子膜の仕事関数を計測すれば、1分子が変調する表面電位を算出できる。表面電位の変調量が異なる有機分子で作製した混合単分子膜は、局所電位をナノスケールで制御した試料となる。以上で、有機分子の電気双極子が有機単分子膜のKPFM電位像のコントラストに与える効果を調べる環境ほ整った。試料作製については、二酸化チタン(TiO_2)(110)-(1×1)基板表面の作製、TiO_2(110)-(1×1)表面での酢酸イオンの単分子膜、トリフルオロ酢酸イオンの単分子膜の作製に成功した。現在、各単分子膜の仕事関数を計測し、酢酸イオンおよびトリフルオロ酢酸イオン1分子が変調する表面電位の解析を進めている。
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