本研究は、ケルビン力顕微鏡(KPFM)が与える表面電位像コントラストの形成メカニズムを解明し、KPFMを用いた局所表面電位の解析法を最適化することを目的とする。局所電位は触媒作用、電子放出、摩擦、粘着等の固体表面の材料特性の源泉であり、含金属有機材料、ガス吸蔵性能、電子デバイスなどの性能・動作状況を評価する有用な物理量である。KPFMを用いた表面電位のナノスケール定量解析の実現は、ナノ技術の高度化に貢献すると期待できる。 平成23年度は、二酸化チタン(TiO_2)(110)-(1×1)表面およびTiO_2(110)(1×1)表面に作成した酢酸イオン単分子膜表面において、KPFMを用いた力学分析(接触電位差、相互作用力、探針振幅、トンネル電流の、探針-試料間距離に対する応答の解析)を実施した。その結果、電位像コントラストが探針振幅の変化に対応して変動する場合があることを見出し、電位信号と探針振幅信号のクロストークが発生する可能性があることがわかった。また、試料表面から1nm程度の距離では接触電位差信号は一定値であり、力学的相互作用およびトンネル電流の電位像コントラストに対する影響は無視できることがわかった。 現在、酢酸イオンとトリフルオロ酢酸イオンの混合単分子膜を作製し、その電位分布解析を進めている。分子双極子の異なる酢酸イオンとトリフルオロ酢酸イオンがナノスケールで局所的に変動させる電位と、探針振幅やトンネル電流がKPFMの電位像コントラストに与える影響を解明する。
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