昨年度は近接場プローブ自身からの非線形発光を背景光ととらえ、分離除去する手法に注力したのに対し、今年度はこの非線形発光を積極的に検出感度の増幅に使う技術の探索を行った。これは、検出したい信号光に対し、プローブの非線形発光が極めて強い場合において、それら2者がコヒーレントに干渉することを利用し、即ち微弱な信号を増幅するというアイデアに基づく。そこで、高効率でこのプローブからの非線形発光を生じさせるように装置開発を行った。具体的には、ビームの偏光を位相偏光素子により広帯域光にも対応したラジアル偏光ビームを作成し、かつ種々の光学素子を通した後に高NA対物レンズで集光下スポットにおいて、フーリエ限界パルスとなるよう、液晶空間光変調器で広帯域光の位相を補正した。これにより、集光スポットにおいてほぼフーリエ限界パルスである、10fsのパルス幅を実現した。さらに、集光スポットにプローブを配置することで、高効率で非線形発光が発生することを確認した。その非線形発光の干渉オートコリレーションを測定することで、この非線形発光も10fs程度であることがわかった。つまり、ナノサイズかつ10fsという極限的時空間領域にフォトンを制御できた。また、オートコリレーションには別の干渉成分が微弱ながら重複して検出されており、こちらはプローブのプラズモン応答に関する情報を含んでいるものと考えられ、プラズモン寿命と電場増強度等に関する知見が得られるものと期待される。 また、可視~近赤外領域における、従来より開発してきたプラズモン増強にもとづく先端増強ラマン分光法においては、極めて大きな進展があった。つまり、近接場プローブの再現性の低さから、本手法の幅広い分析技術としてのポテンシャルがつぶされていたが、極めて簡便かつほぼ100%の再現性で先端増強効果を得られるプローブ開発技術を構築し、20nmの空間分解能でイメージングが行えることを示した。
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