研究課題
平成22年度に開発した新しい試験手法(透過型電子顕微鏡を用いて試験片内部のその場観察が可能な試験手法)を踏襲し、平成23年度は引張り成分がより支配的な試験片形状に改良した。加えて、透過型電子顕微鏡の明視野像と回折像を用いて銅(Cu)ナノ薄膜に存在する結晶粒の形状と結晶方位を特定した。試験片に対して負荷試験を実施し、Cu薄膜内部において塑性領域が発達して行く様子を観察することに成功した。特に、シリコン(Si)とCuの界面自由端近傍及びCu内部の結晶粒界と異材界面の会合部近傍で優先的に塑性領域が発達することを特定した。単結晶であるSiおよびCu薄膜のそれぞれの結晶粒について、直交異方性を考慮した有限要素法解析モデルを構築し、力学解析を実施した。その結果、実験によって観察された塑性領域は、結晶の影響(微視組織の影響)を考慮に入れた力学解析で得られる応力集中領域と一致した。本結果は、応力集中領域の大きさがナノサイズになっても、依然、塑性変形は連続体近似下での応力場によって支配されていることを示している。実験後の試験片について、塑性領域発生箇所に対して詳細な透過型電子顕微鏡観察を実施した結果、この領域には厚さ数nmの層が数十nm間隔で複数存在しており、転位とは明らかに異なる組織の形成が見られた。Cuの結晶方位から、この層は最稠密面である(111)面に沿って発生していることが明らかになり、界面を起点とした部分転位の活動によって形成された積層欠陥であると考えられる。通常、常温下におけるCuの塑性変形は転位の活動によって支配される。本研究によって、ナノサイズの応力集中領域では、転位ではなく積層欠陥の形成によって塑性変形が支配されることが明らかになった。
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