研究概要 |
本研究では,研究代表者がこれまでに確立してきた微量試料で物質拡散係数を導出する測定法を用い,ヒト体内環境がタンパク質の物質輸送現象にどのような影響を及ぼすかについて,周囲環境を変えた観察実験を行い,その評価を行ってきた.試料としては卵白より抽出されるリゾチームを用いた.計測に先立ち,研究代表者が既に設計開発していた高精度干渉計を改良した.所属機関に既存の干渉計は試験光の光軸径が1/2インチであるため,これを1インチに拡張した.装置固有の測定誤差要因を除去するために,各光学デバイスには使用光源の波長632.8nm用のコーティングを行い,実験による偏り誤差を5%以内に抑えた.また,同条件で繰り返し実験を行い偶然誤差による不確かさ評価を低減させ,高信頼度のデータを取得できるシステムを構築した.この測定システムに新たな画像処理技術を導入し,測定実験の高効率化を図った.この測定系を用い,上記タンパク質の拡散実験を実施した.医学系研究協力者の意見をもとに擬似生体条件下でタンパク質非定常拡散場の観察実験を実施した.具体的には,リゾチームの拡散現象と溶液のpHとの関係を明らかにした他,移動物質(溶質)が系内に複数存在する多成分系の拡散現象に着目し,無機塩溶質の濃度勾配が存在する中,クーロン力の影響を受けてタンパク質移動現象がどのように変化するかについて観察実験を行った.この結果,無機塩溶質が希薄な状態では,タンパク質および無機塩は互いに独立した拡散現象を呈することを明らかにした.また次年度の研究へのアプローチとして,生体組織を模擬した多孔質体の製作に着手した.これには海外研究協力者の意見を踏襲し,巨大分子であるタンパク質と生体組織膜とのスケールの関係を定量的に模擬できるようにした.この多孔質体を用いて,次年度,複雑系におけるタンパク質物質移動現象の観察実験を実施していく.
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